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「あの……そんなに笑います?」
「ごめん。ドアを閉めて振り返ったら紬希が仰向けですごく覚悟してたから。本当に大丈夫なのかな?」
そう言って貴堂は紬希の指に自分の指を絡める。
貴堂の囁くような声がいつもと違って紬希の耳に届く。甘くて、低くて良く響くのは変わらないのだけれど、いつもより優しくて近い。
囁くような声は近くにいないと聞こえない。この声が距離の近さなんだと感じて、紬希はどきどきした。
紬希の指先に絡んでいる貴堂の指にも鼓動が高鳴る。
「こんなに小さくて細いのにな」
そんな風に言う貴堂の指は男性特有の骨ばっている指で男性らしくて自分の指とは違って、けれどそんなところもとても素敵だ。
紬希は貴堂のその手を両手でそっと握った。
それだって、貴堂がそれを許してくれると分かっているからできることだ。
「ん?」
「命を守った手ですね」
「紬希も一緒にいたよ」
「え?」
「せっかく渡してくれたのは着てほしいって気持ちなんだろうと思ったから、一緒に行きたいと思った」
シャツの話だ、と紬希も気づく。
──着てくれたのね。
やはり貴堂は紬希の気持ちを察してくれていたのだと紬希の瞳がまた涙でにじんでしまう。
この人がとても大好きだ。
「一人で泣いていなかったか?」
またばれている。
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