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「花小路くんは雪ちゃんなのに僕は貴堂さんなんだ?」
「確かに……ですね」
「誠ちゃんでもいいんだけど」
呼び方のことなんだと紬希にも分かった。
「貴堂さんのこと、そんな風に呼べませんっ!」
即座に返事が返ってきて、割と本気でへこみたくなった貴堂だ。微笑んだままちょっと固まってしまった。
(誠ちゃん!? それは絶対違うわ)
けれど確かに貴堂の言うことは間違ってはいないと感じる。
紬希は一生懸命考えた。
「せ……誠一郎さん……?」
「ん?」
声が小さすぎて聞こえなかったのかも知れないと思った紬希だったが、実のところは囁くように紬希が自分の名前を呼ぶ声を、貴堂がもう一度聞きたくて聞き返したのが本当のところである。
新たに構築された信頼関係が二人の関係性を深めたのだろう。
紬希は以前より貴堂を信頼できると確信したのだし、それに合わせて自分を信じるということを覚えた。
一方で貴堂も自分を信頼してくれる紬希を確認して、それに足る自分でありたいと思い、さらに紬希を愛おしく感じたのだ。
「っ……誠一郎さん」
自分の名前を必死に呼んで抱き着いてくる存在がこんなにも愛おしいものだなんて。
「紬希」
貴堂がそう呼んだ声は紬希の耳元で吐息を含んで囁かれたものだった。
紬希はぎゅっと貴堂の身体にしがみつく。身体の芯がぞくぞくっとしたのだ。
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