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飛行機を降りると南国特有の温かくて、湿度のある空気が紬希を包む。
紬希にとっては初めての経験で、ああ遠いところに来たんだな、と感じた。空も空気もいつも自分が住んでいるところとは全然違う。
どこまでも青い空と眩い太陽。
『到着ロビーを出たところで待っていて』
貴堂にはそう言われていて、ボーディングブリッジを渡った紬希はロビーの方向を確認し『到着ロビー』と書かれてある方に向かった。
「よ……っと」
先日貴堂と一緒に買いに行ったスーツケースをバゲージクレームのターンテーブルから持ち上げた。可愛らしいベージュピンクのスーツケースで、貴堂からプレゼントされたタグが付いているのですぐに分かるのだ。
「大丈夫ですか?」
隣にいた男性が紬希のスーツケースをターンテーブルから降ろしてくれて、そう声を掛けてくれた。
「はい。ありがとうございます」
紬希はふわりとした笑顔を向ける。
「お一人で旅行ですか?」
「あ……いいえ」
「ああ、どなたかと。彼氏ですか?」
「はい……」
「沖縄はいいですよ。楽しんで」
男性はそう言って紬希に笑いかけた。
「ありがとうございます」
スーツ姿の男性は旅行ではなくて出張なのかもしれないと紬希は思った。ゴロゴロとスーツケースを引っ張って、到着ロビーに出る。
貴堂は全員が降りてからしか出てこないはずだ。
(お茶が欲しいな……)
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