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けれど見た目の綺麗さだけではなく、紬希はとても繊細で優しくて思いやりがある。
いつもいつも人のことばかり気遣っているような子なのだ。
その紬希を大事にしたい、と思う気持ちは兄のようなものだと雪真は思っている。
雪真は紬希のことを大事にしたい。幸せになってほしい。
それは間違いはないのだけれど。なんだかもやもやとするのだ。
雪真はつい険しい顔で正面を見つめてしまっていたかもしれない。
「雪ちゃん?」
さらさらとした紬希の声でハッとした雪真だ。紬希は不思議そうな顔で、雪真のことを覗き込んでいる。
「あ……うん、なんでもない。ちょっと考え事をしていた」
雪真は紬希の自宅の前で車を停め、三嶋家の隣に建つ実家を見た。
電気が消えているので両親は相変わらず忙しいんだろうということが分かる。
「ありがとう、雪ちゃん。とてもおいしかった。寄っていく?」
「いや……今日は帰るよ」
就職してからは通勤に便利なのでという理由で、空港にほど近いマンションで雪真は一人暮らしをしているのだ。
それでも、三嶋兄妹には会いたくなってこんな風に来てしまう。
実家よりも心のよりどころになっているのかも知れない場所だ。
「紬希……」
雪真は助手席に座っている紬希に手を伸ばしかけ、途中でやめてぐっと拳を握り、その顔を覗き込む。
「ん?」
紬希は雪真に向かって首を傾げた。
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