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「今日……会った、上司の貴堂さんにシャツの話をした時に……」
「うん」
「着てみたいって言ったんだ」
「そうなの? お時間かかってもよければ、お作りするけれど」
いつもなら紬希は絶対にこんな風に、すんなり了承はしないのに。
「いいの?」
「だって、雪ちゃんの上司の方なのだし、褒めてくださったから」
紬希はとても嬉しそうだ。
その表情を見たら、断ってもいいなんて雪真は言えなかった。
フライトが終わった後に職員を連れて食事に行くことは、実はそれほど多くはない。
みんなも仕事が終わってまで上司と同席したくはないだろうと思うし、ましてや機長ともなれば機内での責任者でもあり、そんな人と気を遣いながら食事するのでは嫌だろうと思うからだ。
それでも一緒にいかがですか?と割とみんな律儀に誘ってくれるので、毎回断るのもどうなんだろうか、と3回に1回くらいは受けることにしていた。
今日はたまたまその日で、そんな時は乗務員に店を選んでもらうようにしている。
彼女たちは、美味しくていい店をたくさん知っているからだ。
空港からは車で30分くらいのその店に、まさか花小路がいるとは思わなかったのだ。
「花小路さんじゃないかしら?」
職員が目敏く見つけたのを感知して、先に中に入るよう貴堂は伝える。
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