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『約束を交わし、制約を背負うことで、人は覚悟を示し、信頼関係を強めることができるのだそうです。その信頼関係が安心感を強め、心の共鳴や理解を促進し、関係性が強固になるという効果を生みます』
紬希の心にはそんな貴堂の言葉が蘇った。
その言葉で紬希は貴堂と交際することを決めたのだけれど、今はお互いを思いやることが関係性を強固にしている。
それは交際を始めた当初よりも、もっと進んだ関係のように思えた。
そうして、そんな信頼関係こそが紬希をこうして外の世界へと導いてくれた。
ふわりとプールサイドを撫でる風を感じて、貴堂は紬希を抱き寄せる。
「こっちにおいで。風が……」
「ありがとう」
そう言った紬希が柔らかい笑顔を貴堂に向ける。
小さな顔に、綺麗に配置されたパーツ。
大きな瞳、小さな鼻と可愛らしい唇。決して派手な顔立ちではないけれど柔らかくて、儚げで貴堂の大好きな顔。
そして今はそれだけではない紬希の素直さも強さも知っている。さらに恥じらう姿も、甘い声も、意外なほどの色気を湛えた姿も。
空港で初めて見た、あの時よりももっともっと愛おしい。
貴堂はふわりと風を身にまとっている紬希を抱きしめた。
「あの時抱きしめたいと思った君が僕の腕の中にいる」
「え……?」
「空港で、花小路くんにシャツを届けに来ただろう?」
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