20.風に抱かれて

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 紬希もそれは覚えている。  シャツが仕立て上がったとメールしたら、珍しく雪真に送るから、空港に持ってきてくれないかとお願いされたのだ。  その時にデッキのあの端なら人目には付かないから、と教えられた。 「は……い」 「見たんだよ。その時に紬希を」  貴堂が優しい顔で紬希を見ていて、そうっと指で紬希の頬を撫でる。 「花小路くんは紬希を風から守ってた。僕が……守れたらいいのに、と思ったんだ」  紬希は頬が熱くなるのを感じた。  レストランで会ったのが初めてだと思っていたのだ。  まさかその前に姿を見られていて、その頃から気持ちを持っていてくれたなんて。 「大人しいだけの女性かと思えば、意外なほど仕事にはストイックだし……昨日の、海の表現も……紬希らしいと思ったよ」 「恥ずかしい……もっと、素敵な表現がありますよね」 「いや。僕には紬希らしくてとても良かった。紬希の色んな姿を見る度に僕は……自慢して歩きたくなったり、僕の腕の中に閉じ込めておきたくなったりする。空を飛ぶこと以外にこんな風に気持ちを持っていかれるのは紬希だけだ」  紬希にだって、貴堂は他の誰よりも安心を与えてくれる人であり、貴堂がいてくれたからこんな風に旅行にまで行けるようになった。  紬希は頬を撫でている貴堂の手の上から自分の手をそっと重ねる。
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