3.幼なじみの恋

4/11

10069人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
 しかも受付で立ち話をしている最中に彼女が姿を現すなんて、本当に想像もしていなかったのだ。  デッキで見た彼女だ。  貴堂は一度見たものは忘れない。  けれど、そういうこととは別に、彼女の姿は心に深く刻まれていた。  長い髪を今日はふわふわと柔らかく巻いている。  シフォン素材のふわりとしたブラウスもスカートも、可憐な彼女にとてもよく似合っていた。  この前よりもオシャレなのは、きっと花小路と一緒だからだ、と思うと貴堂は少し胸が痛んだ。  王子様のような花小路と、お姫様のような彼女はとても似合いに見えた。 「みしまつむぎです」  あの時と同じ聞き心地のいいさらさらした声で、彼女は名乗った。 ──『みしまつむぎ』どう書くんだろう?  けれど、彼女に似合いのとてもいい名前だと思う。  花小路からは人見知りだと聞いていたけれど、褒めていたという話をしたら、とても嬉しそうな笑顔になっていた。 「嬉しい」  自分の言葉で彼女が笑顔になって、嬉しいと思ってもらえるなんてことは考えていなかった。  嬉しいと思ってくれる事が嬉しい。今まで誰かにこんな気持ちになったことはない。  以前に花小路が彼女のことを守りたい人なんだと言っていたが、それも分かるような気がした。  確かに、守りたくなるような人だ。  それに、できればこの手で。  そう思いかけて、いい歳をして何を考えているんだか、と貴堂は打ち消したのだ。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10069人が本棚に入れています
本棚に追加