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「ああ、ごめんね、足止めしてしまった。花小路くんも申し訳ない。お疲れ様、明日はゆっくりして」
そう言って、貴堂は2人に背を向けた。
自分が見送ることはできないような気がしたから。
席に戻って食事を始めると、確かに店の料理は女性が好みそうな盛り付けになっている。
きっとこれは彼女も喜んだのだろうなと思い、いつまでもその存在に囚われていることに、貴堂自身も気づいていなかった。
出てきた食事を見て乗務員もきゃあきゃあと喜んで、写真を撮りながら食事をしているのを見て、貴堂はつい笑ってしまう。
「さっき、花小路さん彼女さんと一緒だったんですね」
「あ! 貴堂さんご挨拶されていませんでした?」
「ふわっとした感じの可愛い人だったよねー」
普段から美形で目立ち、氷の王子なんて言われている花小路のことだ。みんな好奇心に負けて覗いてしまったらしい。
そんな風に人目を浴びるのは、確かに楽なことではないな、と貴堂は苦笑する。
自分もそんな存在であることは棚の上だ。
貴堂は綺麗な仕草で食事を口にした。
「彼女ではないらしいよ。幼なじみなんだって」
「でも、幼なじみからの恋……っていうのもいいですよねえ……」
「一途って感じするし、花小路さんならそれもアリ!」
好き放題だな、と貴堂は笑みをこぼす。
翌日は貴堂は待機だったので飲酒はできなかったのだが、なんだか飲みたいような気分になる。もちろん絶対にしないのだけれど。
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