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作業中のシャツなのかもしれなかった。
部屋の中の方の作業台には端にミシンが置いてある。古い型のそれはこの部屋の雰囲気にとても合っていた。
とても居心地の良い作業場だ。
「改めて、すみません。わがままを言ってしまって」
そう言って貴堂は軽く頭を下げる。
紬希は笑顔で答えてくれた。
「いいえ。雪ちゃ……いえ、雪真さんがあんな風に言うことは珍しいんです」
言い直す紬希が可愛かった。
貴堂はくすりと笑う。
「雪ちゃんでもいいですよ。普段そのように呼んでいるんでしょう」
「ええ、でも会社の方の前でそれは申し訳ないですから」
「雪ちゃんに怒られる? 確かに彼の雰囲気ではないですね」
入り難い雪真と紬希の2人のその仲の良さに、貴堂は胸がチクリとする。
ずっと目をそらしてきたそれに、さすがに貴堂も自分の感情を無視できないことは自覚しつつあった。
「いえ……私が、あまりその、人と接することが得意ではないから……。あの、失礼があったらごめんなさい」
「紬希さん、そんなことは気にしなくていいんですよ」
貴堂がそういうと、紬希はふわりと赤くなって俯いてしまった。
「あ……の、名前……」
「ああ、すみません。花小路くんが紬希が、と言うのでつい僕まで。そんな風に呼ばれるのはお嫌ですか?」
きゅっと唇を噛んだ紬希は、ふるふるっと首を横に振る。
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