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通常なら乗務が終わったら真っ直ぐ帰る貴堂なのだが、たまに帰り際にデッキに出て離発着する機体を眺める事があった。
何か考えることもあるし、頭を真っ白にして、ただ見ていることもあった。
飛行機が大好きなのだ。
その離発着はどれだけ見ていても飽きることはない。オフの時まで仕事のことを考えたくない、という人もいるのかもしれないが、貴堂に限ってはそれはなかった。
この日もデブリーフィングと呼ばれる到着後の打ち合わせを終え、着替えてデッキに寄ろうと足を向けた。
そのデッキの少し物陰になっているところで、先程まで一緒に乗務していたコーパイ、副操縦士の花小路の姿が目に入ったのである。
やはり花小路も飛行機が本当に好きなんだな、と嬉しくなった。
花小路雪真『花王子』とも呼ばれている彼は、貴堂とはまた全く違う美形で、そのふわりとした髪が風に煽られる姿すら絵になる。
冷たいくらいに整った美貌に、誰に声をかけられても相手にしないところから『氷の王子』の別名があるくらいだ。
そんな花小路に声をかけようと思ったら、彼の目の前には女性の姿が見えた。
待ち合わせだったのか……と貴堂は声をかけるのを止めたのだ。
「雪ちゃん、お疲れ様」
「紬希」
雪真、だから雪ちゃん。
その声と親しげな呼び方に貴堂はドキッとした。
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