10070人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
紬希が時折シートにサイズを記入するために離れるのでその間に心を落ちつかせる貴堂だ。
作業台でシートにチェックを入れながら、目を伏せていると、伏せたまつ毛が長いことに貴堂は気付いた。
業務でも使うマインドフルネスをフル活用して、貴堂は気持ちを静める。
そうして、ここはとても静かで居心地がいいことに気づいた。
「今日はお時間、大丈夫ですか?」
その静かな空間に彼女の声が響く。
「休みなんです。それにここはなんだか静かでとてもいい……」
木のぬくもりのある内装と、適度に雑多な雰囲気と古いミシン。紬希が静かに作業する音。
貴堂は妙に気持ちが落ち着いてきて、あの花小路が懐くのも道理であるような気がした。
「ずっとここで作業されるんですか?」
「はい」
それはとても綺麗な光景ではあったけれど、いつもチームで仕事をして、周りに人がいる事が途絶えない貴堂には、なんだか寂しいような気持ちもする。
「寂しくはない?」
だから、そんな言葉が思わず口から漏れてしまった。背中の方を測っていたはずの紬希の動きがふと、止まる。
動いていいものかわからなかったけれど、貴堂がそっと後ろを振り返ると、驚いたような顔で紬希は貴堂を見ていたのだ。
「どうしました?」
「いえ……寂しいとか思ったことはなくて」
そうしてふっと紬希は瞳を伏せる。
「雪真さんから聞いているかもしれませんが、私は人が苦手なんです」
「うん。聞いてます。どうして? と聞いてもいい?」
最初のコメントを投稿しよう!