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「僕には歳の離れた弟がいるんですけど、小さいころにわんわん泣くと、こうしてハグして背中を叩いてやると落ち着いていたんです」
「それ……その弟さんがいくつの時ですか?」
「いくつだろう? 5歳? 6歳くらいかな……」
「私、5歳の男の子と一緒なんですか?」
思わず涙が止まってしまったのだろうか、腕の中から顔を上げた紬希が少しだけ不本意そうな表情をしていた。
その純粋さは変わらないような気がするが。
可愛さで言えば、紬希の方がずっと可愛らしい。
「つらい思いはいくつになっても同じですよ?」
くすん……と泣き止んだ紬希がそっと離れてしまうのが、貴堂には少し残念だった。
「あの……採寸します」
仕事を思い出したようだ。
貴堂は苦笑して立ち上がる。
もう少し忘れてくれていても良かったのに、と思う。
しかし、仕事に向かうと途端にきりりとした雰囲気になるのは、悪くはない。
まっすぐ立っていてくださいね、と言われて真っ直ぐに立つ貴堂だ。
メジャーを自分の首からかけた紬希はまた丁寧にサイズを測り始めた。
「どんなシャツにしましょうか?」
「花小路くんが着ていたのがありますよね。制服の下に着ることのできる白いシャツです」
「分かりました。では素材も少ししっかりしたものにしますね」
紬希はずっと怖かった。
人に見られることも苦手なら、それを打ち明けることも苦手だった。
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