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誰かにそれを言ったら『そんなことはあなたの自意識過剰なんだ』と言われることが怖かった。
会社での出来事があってから、兄も雪真も前以上に過保護になった気がした。雪真はいつも『紬希は悪くない』と言ってくれていた。
『頑張りましたね』と。
今認められているなんて紬希は思ったことはなかったけれど、そんなふうに言われた時、目の前が大きく開けたような気がしたのだ。
その時紬希は貴堂に対して、この人はどんな人なんだろう、と初めて興味を持ったのである。
「貴堂さんはパイロットなのですよね?」
「はい」
急に紬希がそんなことを言い出したことに貴堂は驚いたけれど、なにやら興味があるらしいということは分かったので、素直に頷く。
「飛行機を運転するのって大変じゃないのですか?」
「紬希さんはコックピットを知っている?」
紬希は首を横に振る。
貴堂はそれにも、ふっ……と笑みを返した。
「頭の上にも僕の前にも横にも沢山のボタンとかスイッチがある。それを入れたり消したりするのが仕事だよ?」
「スイッチ……?」
なにを想像したのか、紬希の顔が夢を見るように想像の世界に入ってゆくのを貴堂は見た。
それは子供のようだった。
けれど、そんな姿でさえも夢を見るお姫様のように紬希は綺麗なのだ。
紬希は急にハッとした顔になる。
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