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「緊張している?」
貴堂からくすりと笑い声が聞こえる。
「はい……そうですね。普段はメールと専用フォームへの入力だけで完結しているので、こんな風に直接お伺いするようなことはないんです」
「貴重だね」
それが貴堂のことを指しているのか、紬希の経験のことを指しているのか紬希には、はかりかねた。
それでも確かに貴重なことではある。貴重なことだけれども、いつもと変わりないことでもある。
サイズを確認して素材を選び、デザインを選んでもらう。
そう思ったら、急に紬希の気持ちは落ち着いてきたのだ。
生地はここにあるだけではない。倉庫に保管されているものもあり、その大量の生地の中から紬希は5種類のものを選択していた。
それを作業台に広げる。
「よろしければ、触れてお選びになってみませんか?」
紬希はそう言って貴堂を見上げた。
「いいんですか?」
貴堂はとても驚いていたけれど、その瞳が好奇心で少年のようにキラキラしているのを見て、紬希は笑ってしまった。
先ほどまでその包容力で紬希をどきどきさせていたというのに。
急に子供のように無邪気に笑う貴堂は大人の男性なのに、少年のようだったから。
「あなたが急に笑うとどきりとしますね」
「え?」
そんなことを言われた紬希の方がどきりとしてしまう。
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