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確かに今まで花小路が誰それと付き合っているという話は聞かないし、むしろ誰にもOKしないけれどなぜ?と言われていた。
なるほどな……と思う。
あんなにも穏やかな甘い声で、しかも2人にしか通じないような呼び方で『お疲れ様』なんて言ってくれる相手がいるのでは、それも仕方ないだろう。
彼女は風になびく長い髪を一生懸命抑えている。
風の向きが……と貴堂が思ったら、花小路はその彼女の肩にそっと触れた。
「こっちにおいで。そこは風が強い」
そう言って自分の風下になるように彼女を立たせる。
花小路の方も普段聞いた事のない、甘い優しさを含んだ声だ。
「ありがとう」
そう言って彼女が花小路を見上げたその柔らかい笑顔に、貴堂は胸をぎゅっと掴まれるような心地がした。
小さな顔に、綺麗に配置されたパーツ。
大きな瞳、小さな鼻と可愛らしい唇。決して派手な顔立ちではないけれど柔らかくて、儚げで貴堂の好みなのだ。
しかし相手は後輩の彼女である。
他人を羨んだことはない貴堂だが、今日は少しばかり花小路を羨ましく思いながら、そっとその場を立ち去った。
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