5.お姫様を連れ出す王子様は?

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「仮縫い?」 「はい」  貴堂は面白そうな顔になる。  まさか、お礼がそんなものだとは思わなかったのだ。 「うちでは仮縫いはしないのですけれど、本当はした方が身体にピッタリのものが作れるのです。でも……お忙しいですよね」  つい、笑みのこぼれる貴堂だ。この人はどこまで仕事が好きなのだろうかと思う。 「いや。せっかくなのだし、ぜひとも協力させてもらおう。けれどそれでは僕が得をするだけでお礼にはならないな……」 「お礼なんて……本当にいいんです」  考える表情を見せる貴堂に、俯いて紬希は伝えた。お礼なんて本当にいいのだ。それよりもいいものを作って、貴堂に渡したかったから。 「この後、お昼ですよね。ではお昼ご飯をごちそうさせてくれませんか?」 「あの……私……」  人が苦手なのだと言おうとして、察した貴堂が真っ直ぐに紬希を見ていた。  口元に柔らかい笑みが浮かんでいて、何となくこの人なら大丈夫、という気がする。 「うん。承知しています。僕に任せてもらえませんか?」  少し強引にも思えたけれど、貴堂はきっと紬希に無理強いをする人ではない。それだけはなぜか紬希ははっきりと分かっていた。  それでも外に出ることはとても苦手なのである。  そのせめぎ合いは紬希の中では大きなものだ。 「紬希さん、大丈夫。何か言われても僕が守ります」
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