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本当は怖い。けれど、この人と一緒なら大丈夫かもしれない。
こくっと紬希は頷いた。
とんでもなく緊張しながら、紬希は自宅へのドアを開けた。
透は背を向けていつものようにリビングのパソコンで作業をしている。
「お兄ちゃん……」
「んー?」
「あの、お食事に行ってきます」
「うん」
くるりと透が椅子ごと振り返る。
「どこへ?」
「え……っと、どこかしら……?」
紬希の戸惑ったような表情に透の方が戸惑う。
「ん? それ、一人で行くわけじゃないってこと?」
天地がひっくり返ったような顔をしている透だ。紬希も一大決心をした表情になっていた。
はふ……と透はため息をついて、髪をかき上げた。
「それ、今日のお客さん?」
「はい」
こくりと紬希は頷いた。
兄である透には今日、花小路の紹介で貴堂が来るとは言ってある。
透はふわりと笑った。
「紬希が行きたいなら、行っておいで」
「あの……それで貴堂さんがお兄ちゃんにご挨拶を、と言っているんだけども」
「分かった。出よう」
紬希が家族と、雪真以外の人と出かけるなどは何年か振りではないのだろうか。
正直言えば、透は心配だ。
けれど、せっかくの紬希の決心を折ってしまうようなことはしたくない。
それに……紬希のお口が山のようになっている。
──紬希、その決意を秘めすぎた……というか完全に出ちゃってるその顔では、100年の恋も冷めてしまわないか?
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