10075人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
透が外に出るとスラリと背の高い人物が立っていた。その立ち姿も雰囲気もきりりとしていながら、包容力のありそうな人だ。
彼は真っ直ぐに透を見て、それからゆっくりと丁寧に頭を下げた。
大人できちんとした人なのだ、と透は思う。
「初めまして。貴堂誠一郎と申します」
「こんにちは。紬希の兄で『三嶋シャツ』の取締役をしています。三嶋透です」
そう言って透は名刺を渡す。
貴堂はそれを綺麗な仕草で受け取った。
「すみません、名刺を持ち合わせていなくて」
「ああ、いえ? 花小路から聞いています。同じ会社の方でとても素晴らしい上司だと」
「花小路くんこそ、とても優秀な操縦士なのでいつも助けてもらっています。今回も紬希さんをご紹介していただけたのは、とても光栄なことでした」
そう言って、貴堂は紬希を見た。
見られた紬希の方も照れたような顔をしていた。
そうか……と透は思う。
紬希はとても人が苦手だ。
特に会社に入社してからの件はひどいものだった。あの件で紬希はどれだけ傷ついただろうか。
それが原因で家を出ることも、人と会うこともままならなくなった。とても、とてもいい子なのに、声を上げることや主張することが苦手でそれゆえに損ばかりしていたことは知っている。
そして見た目の綺麗さも拍車をかけていて、おとなしくて綺麗な紬希が同性の妬みの対象になりやすかったことも。
仲のいい友達が出来る前に、会社から退職せざるを得なかった。
最初のコメントを投稿しよう!