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紬希にシャツづくりの才能があったことは天の恵みだったと透は思っているのだ。
幸せになるべきだ、幸せになってほしいと、同級生の花小路といつも言っていた。
それを雪真がしてくれるのではないかと透は思っていたのだけれど、どうやら違ったようだ。
お姫様を塔から連れ出したのは、見守るだけではない、一緒に手を繋ぐことの出来る王子様だった。
この人はきっとモテるだろうし、紬希にもしも恋心があるのであれば、叶うことはないかもしれない。
それでも紬希が一歩踏み出す決意をしてくれたことが、透には嬉しかった。
「よろしくお願いします」
「はい。おまかせください」
その言葉で、貴堂は事情を知っていることを透は悟った。
「紬希、楽しんでおいで」
透は紬希に笑顔を向けた。
「はい」
近くに停めてあった貴堂の車はSUVだった。
──どうやって乗ればいいの?
SUVは車高が高く、普段雪真のセダンにしか乗らない紬希はどう乗ったらいいのかも分からない。
戸惑う紬希を貴堂がふわりと抱き上げて、助手席に乗せた。
そうして助手席できょとんとしている紬希に笑顔を向けたのである。
「車高が高くて乗りにくくてごめんね」
「いえ」
お……驚きました。
「スカートを挟まないように気を付けて。ドアを閉めるよ?」
そう言って貴堂はそっと助手席のドアを閉めてくれる。
「ありがとうございます」
雪真も気遣いの人だと思うけれど、これほどではない。エンジンをかけた貴堂はとても楽しそうだった。
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