10076人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
「紬希さん、苦手な食べ物はある?」
「ないです」
「エビとアボカドとローストビーフとサラダは平気?」
ずいぶん具体的な質問だ。
「大好きです」
「よし、じゃあそれにしよう」
車内のパネルに貴堂が手を触れると電話のコール音が聞こえた。
『はい。ル・ブランシェです』
「あ、貴堂です」
『貴堂様、いつもありがとうございます。ご予約ですか?』
「いや、テイクアウトをお願いしたくて。サンドウィッチを2人分、エビとロービーで。あと何かデザートはありますか?」
タッチパネルから直接電話ができるようなのだが、通話中の声が車内に聞こえているのだ。
オープンな貴堂には紬希は戸惑ってしまう。
貴堂はそんなことも慣れた様子で会話の内容を聞かれることなど、全く気にしていないようだ。
『……そうですね、テイクアウトでしたら、エクレアではいかがでしょうか?』
「紬希さん、エクレアは食べれらる?」
こくこくっ、と紬希は頷いている。一生懸命気配を消そうとしているのが可愛らしい。
「では、それで。あとコーヒーは飲めるかな?」
また紬希はこくこく、頷いている。
あまりの可愛らしさに、つい貴堂はポンポンと頭を撫でてしまった。
「コーヒー2人分も」
『お連れ様がご一緒なんですね?』
笑いを含んだ声に貴堂は心の中で余計なことは言うなよ?とつぶやく。
電話に出ていたのは、ベテランの受付担当者だったので、さすがに何か余計なことを言うこともなく、何分後にご到着ですか?と尋ねてきた。
最初のコメントを投稿しよう!