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そう言われて、貴堂ににこにこと手を差し出された紬希は戸惑ってしまう。
公園はとても広くて見晴らしが良く、ここで迷子になるのは困難な気が紬希はするのだが。
「迷子、にはならないかと……」
「そうですね。でも、転んであなたが泣いてしまってもいけないので」
なんだか子供扱いのようだ。
「私、そんなに普段は泣きませんから。本当ですよ」
一生懸命紬希がそう言っても、笑って貴堂に手を繋がれてしまう。
大きくて温かいその手の平は包み込まれるようで、紬希はどきどきしながらも、不安にはならなかった。
むしろ、包み込まれるようなその手は安心するものだったのである。
貴堂は本当に慣れた様子で、紬希を木陰まで連れて行った。その様子はとても楽しそうだ。
その時、貴堂が紬希の後ろをひょいっと見る。
「僕がこの公園に来るのはね、紬希さん後ろを向いて?」
くるりと紬希が後ろを振り向くと、小さく飛行機が見えた。
「あ……、飛行機?」
「そう。ここはね、飛行機が見える公園で有名なんですよ」
公園はちょうど飛行機の航路近くになっているようで、みるみるその機体が近づいてくる。
貴堂は離陸直後のそのコクピットが慌ただしいことを知っているが、それでも外から見る飛行機はこんなにも力強くて優雅だ。
大きなエンジン音が段々近づいてきて、その機体がはっきりと姿を見せる。
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