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空を飛ぶために計算しつくされたその完璧なフォルムには、いつも貴堂は見とれてしまいそうになる。
それでも今日は紬希に見せたくて来たのだから、と紬希に目をやると紬希も瞳をキラキラとさせて飛行機を見ていた。
怖いとか言われたらどうしようかと思ったのだが杞憂だったようだ。
「あれは、A320っていう機体だよ」
「え!? そんなの見ただけでわかるんですか!」
「分かる。よく見ていて」
機体はどんどん近づいてきていた。
「顔がイルカみたいで可愛いから。で、翼がピースしているんだ」
「イルカ?ピース?」
紬希が轟音を立てて近づいてくる機体を一生懸命見ている。
近づいてくるにつれて、その先端が二つになった独特の翼が見えた。
「本当だわ! 貴堂さん、ピースしてました! イルカ? は言われればそうかも……? すごいわ! 貴堂さんも雪ちゃんも普段あんな大きな飛行機を操縦しているんですものね」
その無防備な笑顔が心から可愛い。
自分の前だけで見せてほしい。自分に向けてほしい。
愛らしい、可愛い、愛おしい。そんな気持ちが自分の中に溢れるような経験を貴堂はしたことがなかった。
飛行機に無邪気な笑顔を見せるかと思えば、プロフェッショナルとしての顔を持つ人。
純粋で誰にも見せない泣き顔を貴堂に見せてくれた人。好きにならないわけがない。
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