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「ええ。ですから、立ち上がらないようお願いしましたね」
いたく真面目な顔で貴堂はそう紬希に返事をした。
「素敵。そんな貴堂さんの操縦される飛行機に乗ってみたいです」
貴堂は目を細めて笑った。
「是非」
そうして、デザートのエクレアを紬希に手渡す。受け取った紬希はそれもぱくんと口に入れた。
「美味しいです!」
「紬希さん、唇の端にチョコレートがついてます」
ここ、と自分の口元で指差す貴堂だ。紬希は恥ずかしくなってしまった。
「すみません。なんだか恥ずかしい……」
「いえ。そんな風に嬉しそうに美味しいと言って食べて頂けるのはとても嬉しいですよ。ああ、だから花小路くんは君と食事に行きたがるんですね」
紬希はいつまでも貴堂の話を聞いていたくなった。
「さて、いつまでも紬希さんを拘束していてはいけないな。そろそろ帰りましょうか」
「はい」
そう貴堂に言われて素直に紬希は頷いたけれど、この時間が終わってしまうのはとても残念なことだ。
紬希は行きと同じように貴堂に抱きあげられて車の助手席に乗せられた。
──ええと、これは本当にこれでいいのかしら?
「すみません……」
「いえ?車高が高くて乗りにくいでしょうから」
行きと同じようににこりと笑われる。
その笑顔に紬希は何も言えなくなった。
それはそうかもしれないけれど。
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