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飛行機を飛ばすという業務は、見落としの許されない確認作業やルーティン、チェック項目が山ほどあり、またそのどれが欠けても大変なことになる。
命を乗せて運航する以上、それを誤りなく滞りなく、淡々とこなしていくのが仕事なのだ。
コックピットの中の隣の席で、花小路が淡々とコールしていくのを聞いて、ふと貴堂の頭の中にこの前の光景が頭に浮かんだ。
デッキで優しく彼女を風から守っていた姿だ。
機体が離陸し、巡航高度になって貴堂は軽く息をつく。
巡航高度になると機体は安定して、少しくらいは雑談もできるようになるからだ。
着陸時の方を怖がる乗客も多いと聞くけれど、操縦士としては、実は離陸時の方が緊張する。
航空事故は、離陸時の3分間と着陸時の8分間に集中している。このため航空業界には「魔の11分間」という言葉があるのだ。
飛行機も着陸時にはスピードを落としながら空港にアプローチしてくる。
反対に、エンジンを全開にし、フルパワーで加速しながら行うのが離陸だ。
着陸時と離陸時で時速は100km近く違うこともあり、速度が早い分緊張が高まる。
その早い速度の中で、あらゆる事を想定して機体を操縦するからだ。
巡航高度になれば、つい息もつきたくなる、というものだろう。
ふ……と落ち着くと、花小路も軽く息をついているのが見えた。
このタイミングでの雑談を好む機長も多い。
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