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紬希の個人の携帯が着信を知らせることなどほとんどないのである。
あわてて画面を見るとそれは貴堂からの着信だった。
「はい! もしもし……」
『無事におうちに着きましたか?』
笑いを含んだ声だった。
「私はおうちの前まで送っていただきました」
からかわれているのか、真剣なのかよくわからない。でも笑っているから、からかっているのかもしれない。
紬希は少し拗ねたような声がでてしまう。貴堂が相手だと素直に甘えることができるのだ。
それでも貴堂がそんな風に紬希が素直に自分を出せる相手になっているということに、紬希自身は気付いていなかった。
『中に入るところまでは確認しなかったからね』
「貴堂さんこそ、もうご自宅ですか?」
『ん? まだ運転中だよ。紬希の声が聞きたくて。それに君は僕が交際を申し込んだと信じてくれなさそうだから』
「すごい! 当たってるわ! まだ信じられません」
あははっと笑い声が聞こえる。
『冗談のつもりだったのに、本当にそうだったとは。君は本当に素直で可愛い人だな』
「そうやって、私をからかって……」
『からかっていないよ。本当に可愛らしいし、実を言えば年甲斐もなくはしゃいでいるんだ』
柔らかく耳に届く声が心地いい。
「年甲斐……なんて」
『本当。はしゃいで、君の反応一つ一つに喜んでる』
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