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貴堂はとても正直に自分の気持ちを丁寧に紬希に伝えてくれる。
紬希は電話の声を聞くだけで、こんなにドキドキすることがあるのだと知らなかった。
密やかに甘いような声に鼓動が高鳴る。
だから紬希も正直に答えることにした。
「私もとてもどきどきします」
『そうか、嬉しいな。不在の時も僕のことを考えてくれたら嬉しい』
そんな風に言われたら、つい考えてしまいそうだ。
『明日は待機でその次は国内線乗務なんだ。翌日はオフにはなるけど、その次が国際線乗務になるから、しばらく会えない』
「はい」
今までも誰かと会う約束など、ほとんどしていないし紬希自身の生活が変わることはない。
だから、はいとしか返事ができなかったのだけれど。
『また、連絡するよ』
そう言って、電話は切れた。
──約束を交わし、制約を背負うことで、人は覚悟を示し、信頼関係を強める。
貴堂はそう言ったのだ。
紬希の生活が変わることはないけれど、それでも予定をきちんと伝えてくれるのが貴堂の誠意なのだと、電話を切って紬希は気付いた。そうやって、貴堂は紬希のことを考えていると伝えてくれている。
「あ……」
紬希は言葉を失った。とても素晴らしい人だと思う。
──今、紬希が彼に返せること……。
紬希は作業台を見た。
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