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そこには先ほど貴堂が選んだ布と、詳しいサイズを書き込んだ用紙が置いてある。
貴堂が紬希の作ったシャツを着てくれて、着心地がいいと喜んでくれたら、紬希はとても幸せな気持ちになるだろうと思うのだ。
紬希は生地にそっと手を触れた。
翌日の貴堂は空港近くにあるJSAビルのオフィスにいた。
この日はスタンバイと呼ばれる待機のために出社していたのだ。申告するものや、会社からの依頼事項、スケジューリング、メールチェックなどの事務作業を進めていく。
「貴堂くん」
事務所にひょい、と顔を出したのは制服姿の先輩パイロットの三条昂輝だった。
「三条さん!」
数年前まで、最年少機長だったのはこの三条である。
貴堂が昇進した時は『数年で最年少記録を破られるとは!』と笑って昇進祝いの会を開いてくれた人だ。
貴堂も目標としているような人だった。
JSAの濃紺の制服が似合う人で身長も高く、海外の乗務員用ラウンジでもその存在感は損なわれることがないと言われるくらい、華のある人物だ。
同じく整った風貌の目立つ貴堂と並ぶと、なかなかに迫力がある。事務所内でも相当に目立っていた。
貴堂は三条に笑顔を向ける。
「今日はフライトですか?」
「いや、シミュレーターの教官」
社内にあるフライトシミュレーターの教官も機長として重要な仕事の一つである。
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