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もちろんシミュレーターでの訓練も大事な仕事なので、当然様々なシチュエーションで訓練はするものなのだが。
ししし……と三条は人の悪い笑みを浮かべている。
貴堂はなんだか嫌な予感がした。
「着陸許可を求めてきたからUnable(できない)って言ってやったのさ。そしたら、訓練生は頭真っ白になっちゃったみたいでさ」
「新人ですか?」
「シミュレーターも今日が2回目か3回目くらいと言っていたな」
三条はえーと、と考えるような仕草をしていた。それほど経験が浅いのでは動揺するのも仕方ないと貴堂は苦笑する。
「それは……」
「予定の空港に降りれなくて、ダイバート。代替空港での着陸許可だったから、泣きそうになっていたしな」
その泣きそうになっていたパイロットに更に追い討ちをかけたということだ。
「ではダイバートした時点で頑張ったのでは……」
「お前ならどうする?」
そう聞かれて考えるまでもなく貴堂は答える。
「進入できる状況になるまで、どの高度を維持すればいいか確認しますけど。それか近くの降りられる空港を探すか……」
「そういうことだろ」
シミュレーションにしたって、なんのための訓練なのかということは常に頭に置くべきだし、了解を求めた時に必ずしもYesが返ってくるとは限らない。
しかし突然返ってきたNoには新人なら驚いただろうし、一瞬頭が真っ白になるのも分からなくはない。
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