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紬希はその声にびくんとした。それはとても甘く低く紬希の耳に響いたから。
「……っあ、あの……!」
『ごめん。困らせたね』
困ったのは確かだけれど嫌な気持ちではないというのは……。
紬希はそれをうまく伝える術を知らなかった。
でも誤解はしないでほしい。
そんな気持ちでいっぱいになる。
「あの……私待ってますから。お気をつけて行ってらして下さい」
もっとたくさん伝えたい気持ちがあるような気がするけれど、今の紬希に伝えられるのはそれが精一杯だった。
『ありがとう。行ってきます』
貴堂の晴々とした声が紬希には嬉しかった。
交際してほしいと言われて、それから貴堂は宣言通り誠意をみせてくれているし、それを紬希もとても感じる。
貴堂に真っ直ぐな気持ちをぶつけられても不快感や怖い気持ちは一切ない。
それは気持ちと行動が一致しているからだろう。
前の会社の人の時は紬希のことなど気にしていないと言いながら、時折舐めるように見られるのがとても苦手だった。
貴堂は真っ直ぐに紬希を見て、会いたいとハッキリ言ってくれてそこに乖離はない。
だから、信頼できる人なのだと紬希は思う。
貴堂が示してくれている一つ一つの行動がこの前言っていた『信頼関係が安心感を強め、心の共鳴や理解を促進し、関係性が強固になるという効果を生む』ということに繋がっている。
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