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紬希はそれまで自分が誰かと交際することなど考えたことがなかった。そんなことはもうずっとないんだろうと思っていた。
けれど、こんな風に示してくれる貴堂をとても尊敬するし、信頼している。
時折胸がきゅっとしたり、ふわふわしたりするし、頬が熱くなって困ることもあるけれど……。
紬希はそうっとため息をつく。
──貴堂さんはどうしてあんなにお声まで素敵なのかしら。
携帯をリビングテーブルに置いた貴堂はふーっと大きなため息をつく。
採寸のあと、紬希を連れて公園にランチに行った時から……いや、そうではない。
あの空港のデッキで風をまとわせる紬希を見てからだ。あの綺麗な瞳で雪真を見ていたのを見たときからだ。
今の自分の全部をかけて紬希がほしいと思ったし、少しでも傾けてもらえる気持ちがあるのならそれを自分に向けてほしい。
こんな感情を自分が持つことになるなんて貴堂は思わなかった。
会えば会うだけ、触れ合えば触れ合うだけ、紬希が欲しくなる。
あんなロマンティックさのかけらもないような告白をきちんと考えると言ってくれるのは、紬希くらいだろう。
年甲斐もなくはしゃいでしまっているのは、貴堂が誰よりも一番よく分かっているし、メールだけでは気が済まなくて電話をしてしまうなど、今までの貴堂ならありえないことだ。
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