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何より頼んでよかったと言ってもらえることは紬希の喜びでもある。
淋しいと思ったことはなかった。
今も淋しくはない。
──けれど……。
紬希は作業場の大きい窓から空を見た。今日はいい天気で、その大きな窓からは雲一つない青空が見えていた。
(今日は楽しく飛べていますか?私はあなたが喜んでくれるといいなあって思ってシャツを作ってます)
そんな風に心で言える相手がいることで、気持ちが豊かになることを紬希はとても嬉しく思うのだ。
そうして紬希は手元のシャツを広げた。
雪真からオーダーを受けてシャツを作るときに気を付けるのは、シャツが動きを妨げないことだ。
雪真が言うにはパイロットは腕を上げる動作が結構あるのだが、その辺のシャツだと脇の下や背中が突っ張ってしまうことがあるらしい。
けれど、紬希のシャツにはそれはない。
腕が自在に動かせることや、背中に十分な余裕があるだけでも、格段にストレスが軽減されると言っていた。
だから、肩回りについては、特に気を付けて作っているのだ。
仮縫いをしていれば仕上がりは全く違うし、その時点で縫製を修正することもできる。そうすれば仕上がりはかなり気分よく着てもらえる仕上がりになるはずだ。
(貴堂さんが着心地がいいと言ってくれたら、とても嬉しい)
そんな気持ちで紬希は仮縫いを進めていったのだった。
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