9.貴堂のステータス

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9.貴堂のステータス

 乗務後のデブリーフィングを終えて、入国審査を通過した貴堂はホテルに向かうため、タクシー乗り場に向かった。  ベースではない海外の空港の場合、移動中制服になるのでなるべく早くホテルに入り、着替えたいところだ。  タクシー乗り場には先にチーフパーサーの真木(まき)がいた。貴堂とは一回り以上も年が離れているベテランクルーである。 「貴堂さん、お疲れ様です。途中まで一緒に行きますか?」  いつもならタクシーが乗降客を待っているのに、今日に限ってタクシーが来るのを待たなければいけないような状況で、相乗りさせてもらえるなら助かるといった感じだ。 「お願いします。珍しいな、いつもならすぐ乗れるのに」 「貴堂くんとこんな風に一緒になったとCAにばれたらうるさいわ、きっと。食事に行こうと声を掛けられなかった?」 「はい。掛けられました。けどちょっと用事があって。真木さん、ロンドン土産で女性が喜ぶものって何かありますか?」  真木はきょとんと驚いた顔で、貴堂を見る。 「香水……とか?」 「香水はあまりイメージではないですね」  それに紬希は布に香りがつくのは困るのではないだろうか? 「クルーの間では紅茶なんかも人気があるけれど」 「ああ、紅茶。それはいいな」  紬希があの作業場で紅茶を飲んでいる様子を想像して、微笑ましい気持ちになった貴堂である。
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