2.手縫いのシャツ

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 花小路がすうっとそのシャツを撫でる仕草が、妙に艶かしい。 「そんなにいいものなんだ……」 「そうですね。おそらく、僕だけがそう思っているわけではないと思います。彼女のところには注文がひっきりなしで、中には政治家だったり、大きな会社の重役やオーナーを顧客に抱えているようですから」  今まで無口で愛想がないと思っていた花小路が、嬉しそうに饒舌に喋るのを貴堂は見ていた。 「すごいな」 「けれど、とても謙虚で、彼女自身は一切表には出ないんです。まあ、少し内気というのもあるんですけど」 「いいな。着てみたい」  それはぽろっと口から出てしまった言葉だった。 「頼んでみましょうか?」 「いいのか?」  大事だと言っていた花小路からの提案に貴堂が聞き返すと、花小路は頷いた。 「ええ。ただ、注文が立て込んでいると、かなり時間はかかりますが。僕も半年ほど待って、ようやく先日受け取れたので」  半年も待つと聞いて、貴堂はさらに驚く。  確かに着てみたいという気持ちはあるものの、そんなに忙しいのでは、迷惑なのではないかと思うのだ。 「そんなにかかるんだな」 「すべて手工程なんです。もちろんミシンは使いますけど、一部は完全な手縫いなので」 「手縫いのシャツか」 「着てみると良さが分かると思いますよ」 「あ、うん。だろうな」
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