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この前生地を選んでくれたからだろう。そんなメールを送ってくれた。
先日のランチの時も貴堂は紬希にとても気を遣ってくれていたのだ。
──今も。
貴堂がくれるものは温かくて、紬希も気持ちがとても温かくなる。
『仮縫いまでに検討していただけませんか? それまでの僕の行動を見て。嫌だと思ったら、やはり止めます、と言っていただいて構わない』
貴堂はそう言っていたけれども、今までの貴堂の行動は紬希にも十分信頼の出来る人だという判断をせざるを得ない。
(嫌なんて……思えません)
そうやって逃げ道を作ってくれる貴堂が優しい。それだけでも紬希の胸がほわっと温かくなる。
「貴堂さん……もう仮縫いできちゃいましたよ?」
そうして携帯を置いてボディに近づいた紬希はボディの着ているシャツにそっと手を触れた。
あの日貴堂は、怖がりの紬希のために公園に連れて行ってくれたのだ。
そして交際についてよく知らない紬希のために詳しく説明してくれた。
その上紬希の気持ちが追いつくまで待って、その間も丁寧に気持ちを伝え続けてくれていたのである。
──もうきっと、二度とこんな人には出逢えないでしょう。
紬希は一つの気持ちを胸に強く決めたのだった。
少しだけ湿った空気、けれど清潔で心地よいターミナル。貴堂は羽丘国際空港に戻ると帰ってきた、という感じがする。
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