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──あ、お茶……とかお出しするべき?お菓子とかいるのかしら?
パタパタっと紬希は自宅のリビングに向かった。リビングではいつものように兄の後ろ姿がある。
「お兄ちゃん? お茶とかお菓子とか……あったかしら?」
「こんな時間にお客様か?」
くるりと振り返った透が立ち上がってキッチンに向かう。
「あ……」
確かに兄にはこんな時間?と言われてしまうような時間だ。断った方が良いのだろうか、と紬希は戸惑う。
「どなた? 雪真ではないだろう?」
「貴堂さんです」
「こんな時間に?」
「今日、ロンドンからお戻りになったの。でも……そうよね。確かにお会いするには遅い時間なのかしら」
「紬希、電話か何かで話したのか?」
「ええ。本当は明日お会いする約束だったのだけれど急に今日会えないかと……」
「急に?」
こくり、と紬希は頷く。
「交際のこと、決めたのか?」
紬希は赤くなって俯いた。
返事はなかったけれど、そんなのは一目瞭然だ。
「分かった。ならば俺はもう何も言わない。けど、泊まっていってもらうのはダメだからな。何時になってもいいから今日は帰って頂くこと。いいな?」
「そそ、そんなっ……泊まりになんてなりませんから! 絶対!」
──分からないんだよ、そんなことは!男は急に止まれない時があるんだよ!
心の中でそう思いながらも透はキッチンの棚から花茶を取り出した。
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