10079人が本棚に入れています
本棚に追加
「これならカフェインも入っていないから、この時間から飲んでも構わないだろう」
それに透明なポットに入れた時にふわりと花が咲いたようになるのは、お客様も喜ばれる。
よく海外に行く貴堂には珍しいものではないかもしれないが、透の気持ちは伝わるのではないだろうか。
「ああ、そうね! 素敵だし、これにするわ」
紬希はにこにことしていた。
「紬希、何か言われたらこれを選んだのは俺だと言いなさい」
意味があるのだろうか?と紬希は首を傾げる。
けれど兄は紬希に、なにか悪いことをするような人では決してない。
「分かったわ」
その後ろ姿を透は見送る。
貴堂は頭がいい。
紬希があのお茶を透が選んだ、と言えば意図を察するはずだ。
珍しい中国のお茶。
紬希自身はお茶の準備をして作業場へと上がっていったのだった。
作業場に行き透明のポットに花茶を入れて、丁寧にお湯を注いだ。
爽やかな花の香りがしてくる。ふわりとポットの中に花が開く様子を紬希は見ていた。
その時呼び鈴が鳴り、どきんとした紬希だけれど、ひとつ大きく息を吐いて作業場のドアを開けた。
背が高く、端正な顔立ちの貴堂が少しだけ緊張した面持ちで立っていて、けれど紬希の顔を見て安心したように微笑んだのだ。
「貴堂さん」
「紬希……」
息を吐くような甘い声。
「会いたかった」
そう言われてそっと抱きしめられたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!