10080人が本棚に入れています
本棚に追加
「喜んで頂く。紬希くれるの?」
仕返しのつもりで言ったのに余裕の表情で返されてしまう紬希だ。
しかも貴堂はくすくすといたずらっぽく笑っている。
「なんだか貴堂さん、楽しそうです」
紬希は首を傾げて聞いた。
そういえば、先程から貴堂はとても楽しそうだ。
「楽しくて、幸せだよ。そしてくすぐったくもある。本当に、はしゃぎすぎだな」
紬希は手元のお菓子を貴堂に差し出した。
「あーんです」
とても真っ赤な顔だ。
貴堂はその手を掴んだ。そして両手で包む。
大きくて温かいその手に包まれただけで、紬希の鼓動が大きく跳ねた。
「紬希、それは恋人に。交際の返事は了解なのだと取ってもいいのかな?」
間接照明の淡い光の中で微笑む貴堂はこの上もなく綺麗だった。
──そうだった。
仮縫いの時に返事をすると言って、まだ返事をしていなかった。
貴堂があまりにも甘やかしてくれるから。
「あ……の、ふつつかですが……よろしく、お願いいたします」
ふふっと貴堂は笑う。
「お嫁に来てくれそうな勢いだな」
「そういうことではなくて、ですね」
「うん。分かっている。大事にするよ」
紬希が持ったままにしていたそのお菓子を、貴堂は口元に引き寄せてぱくっと食べた。
「美味しいな」
そして半欠けのそれを自分で手に取り、
「紬希にもあげるよ」
と紬希の口元に寄せる。
最初のコメントを投稿しよう!