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ぱくん、と紬希は口に入れた。
それだけのことなのになぜかひどくドキドキする。
「分け合えるって、幸せだな……」
「ああ、本当ですね。心が共鳴するから貴堂さんのことを理解をできて、関係性が強固になるって。おっしゃった意味……こういうことだったんですね」
貴堂は綺麗な街並みを共有してくれたり、一緒に美味しいと言ってくれたり、いつも分かりやすく紬希に示してくれている。
紬希はもっとそういうことをこの人と一緒にしたいと思ったのだ。
「あ!」
紬希は急に思い出して、声が出てしまった。
「なにかな?」
──なぜ微妙な表情なんでしょう……?
貴堂にしてみたらとてもいい雰囲気だと思ったからである。
「せっかくお越しいただいたので着てみていただけませんか? シャツの仮縫いができているんです」
「へえ……それはぜひ」
作業場のハンガーにかけておいたシャツを紬希は持ってきて手渡す。
「え……っと私は出ていますから、着替えてみてください」
「ありがとう」
紬希は作業場に戻ったけれどなんだか落ち着かない気持ちになった。
交際を了承したのだから貴堂とは恋人になったということで、貴堂が以前説明してくれたことは頭では理解できているけれども、感情がついてこない。
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