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「専務は逆に朝から外出で、午後からアポが……あっ……」
リストに目をやりながらニヤリと口角をあげる美里に「どうしたの?」と声をかけた。なにかあったのだろうか。
「ケーピーエスの名前がある。今日も来るんだね、和久井さん」
「……そうみたい」
「最近ずっとうちの専務のところに通ってるよね」
取引先に㈱ケーピーエスという会社があるのだが、担当の和久井さんは週に一度は必ず専務にアポを取っている。
週に二度訪れることもあるし、それがもう三ヶ月近く続いている状況だ。
詳しいことはわからないけれど、ケーピーエスの前担当者が、なにかミスをしてうちの専務を激怒させたらしい。
専務は「担当者を変えろ。取引停止だ!」とケーピーエスに告げたため、大騒ぎになったと聞いている。
「専務って、和久井さんを門前払いにはしないじゃない? 一応毎回会うだけは会うし、少しは話を聞くよね」
「……うん」
「あんまり無碍にするとケーピーエスの上層部まで話がいきかねないから、このまま適当にあしらっておいて、取引自体はうやむやにするんだろうって噂だよ」
美里は眉根を寄せながら、隣にいる私にヒソヒソと小声で話す。
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