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「ひどいよね、専務。やり方が陰険だわ。取引しないならはっきり断ればいいのに。怒らせたのは前の担当者で、和久井さんは悪くないんだからかわいそう」
美里の言うとおりだ。和久井さんは後任として尻拭いをしてるだけで、彼自身にはなにも落ち度がないのにとても気の毒だ。
ロクに話を聞いてもらえないと承知しつつも、何度もここへ来ては専務に頭を下げていた。
「でも、和久井さんがここに来なくなったら舞花は寂しいだろうから。このままのほうが良かったりして?」
「え?!」
ニヤリとした笑みをたたえて美里に冷やかされれば、私の顔が急激に赤くなった。最近私は、和久井さんのことが気になって仕方ないのだ。
午前の仕事が終わり、お昼休みを挟んで午後の業務がスタートした。
「もうすぐ和久井さんが来るね。今日の舞花のメイクかわいい」
「からかわないで!」
口元を少し膨らませて抗議すれば、それを見た美里が声を殺して楽しそうに笑う。
たしかにお昼休みが終わると共に、きちんとメイク直しはしておいたけれど。
平常心を取り戻さなければと姿勢を正したところで、正面玄関の自動扉が開いてスーツの男性が入ってきた。
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