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和久井さんは遠まわしに断るでもなく、どうしようかと悩むでもなく、即答で行こうと返事をしてくれた。
私は拒まれていないのだ。そう思うとこの上なくうれしかった。
「じゃ、じゃあ……携帯の番号とか教えてください」
勇気を出してお願いしてみると、和久井さんはそばに置いていたビジネスバッグの中から名刺を取り出した。
……それじゃない。会社の名刺は既に貰ってる。
そこに書かれているのは、会社用の携帯番号とアドレスだ。私が教えて欲しいのは、個人携帯の番号なのに。
連絡なら会社用で十分だという意味だろうか。
そんなふうに勝手に想像して、勝手に落ち込みそうになる。
だけど和久井さんは取り出した自分の名刺をテーブルに置いて裏返し、ボールペンで余白にスラスラと数字を書き込んでいく。
「はい、俺の番号」
和久井さんが手書きで記したのは、私が望んだ個人携帯のものだった。
「スマホを鳴らしたほうが早いよな。あと、メッセージアプリのIDも交換」
あわてて自分のスマホをバッグから出して、和久井さんと連絡先の交換をした。
それがうれしすぎて、顔が緩んで仕方ない。夢ではないかと頬をつねりたくなるくらいだ。
これで一歩前進! ……そう思ってもいいのかな。
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