5.前進

20/35
前へ
/157ページ
次へ
「舞花の言い分もわかる。でも、和久井さんはよくわからない人だね。部屋に連れていくってことは、舞花を気に入ってると思うんだけど。なのに実際にアクションを起こしてこないっていうのが……ねぇ?」  男ならその場の雰囲気で押し倒したくなるはずだと、美里が不思議そうな顔をした。  和久井さんにとって、私はそういう対象ではないのだろうか。女としての魅力に欠けているのかな?  だって、キスすらしなかった。  それどころか、手を握ったり抱きしめたり、そういうのすらなかったのだ。  本当に和久井さんは難攻不落だ。他の女性たちからそう称されている理由がよくわかった。 「でもね、連絡先も交換したし、日曜日にラーメンを食べに行く約束をしたの。これって進歩だよね?」  一歩ずつ、少しずつ……  和久井さんに近づくにはそれしかないのかもしれない。  焦っても仕方がない。  ラーメンを食べるだけのデートだとしても、私と和久井さんの距離を確実に縮めていければいい。  ふたりきりで会えるだけでも、私はうれしいから。  和久井さんと約束をした日曜日は三日後だ。  私はその日が来るのがすごく楽しみで、単純だけど仕事中も元気でいられる。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

373人が本棚に入れています
本棚に追加