1.恋心

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「専務、アポ忘れてたの?」  美里が訝し気な顔で私に小声で聞いてきたので、彼女には正直に、専務はまだ会食中だと話した。 「わざとなんじゃない? アポの相手が和久井さんだとわかっててやったとしか思えない。すっぽかせば、和久井さんが諦めて帰ると思って」 「私もそんな気がする」  アポの相手が和久井さんではなく他のクライアントだったら……  専務は同じように、優雅に会食時間を延ばして帰社時間を遅らせただろうか。  そんなふうに考えると、自分の会社の専務が酷く嫌な人間だと自覚してしまった。  私はロビーの隅にあるコーヒーマシーンを使って紙コップにコーヒーをそそぎ、和久井さんの元へ運ぶ。 「どうぞ」 「ありがとう」  コーヒーを差し出すと、和久井さんは笑ってお礼を述べてくれた。 「すみません、当社の専務がご迷惑を……」  専務の傲慢な態度が申し訳なさすぎて、思わず頭を下げた。  同じ会社の人間として代わりに謝りたいのだけれど、どうしたらいいのかわからない。
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