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「専務、アポ忘れてたの?」
美里が訝し気な顔で私に小声で聞いてきたので、彼女には正直に、専務はまだ会食中だと話した。
「わざとなんじゃない? アポの相手が和久井さんだとわかっててやったとしか思えない。すっぽかせば、和久井さんが諦めて帰ると思って」
「私もそんな気がする」
アポの相手が和久井さんではなく他のクライアントだったら……
専務は同じように、優雅に会食時間を延ばして帰社時間を遅らせただろうか。
そんなふうに考えると、自分の会社の専務が酷く嫌な人間だと自覚してしまった。
私はロビーの隅にあるコーヒーマシーンを使って紙コップにコーヒーをそそぎ、和久井さんの元へ運ぶ。
「どうぞ」
「ありがとう」
コーヒーを差し出すと、和久井さんは笑ってお礼を述べてくれた。
「すみません、当社の専務がご迷惑を……」
専務の傲慢な態度が申し訳なさすぎて、思わず頭を下げた。
同じ会社の人間として代わりに謝りたいのだけれど、どうしたらいいのかわからない。
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