1.恋心

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「はは。もう専務の性格にも慣れたよ。はっきりと帰れって言われてないんだから待てばいい。仕事の話は……また聞いてもらえないかもしれないけどね」  鞄から書類を取り出してテーブルの上に広げている和久井さんを見ると、なんだか切ない気持ちになった。  なんとか専務に話を聞いてもらいたいと、こんなにも一生懸命なのに。いったいどうしたら専務はとりあってくれるのだろう。 「あの……余計なお世話かもしれないのですが」  少しでも和久井さんの役に立ちたくて、気がついたら私は思いついたことを話し始めてしまっていた。 「専務は最近、どら焼きが好きなんです!」 「……え?」  私の突拍子のない言葉に、和久井さんはわけがわからず、一瞬ポカンとした。  実は先日、専務がとあるお店のどら焼きを気に入っていると、社員食堂で秘書課の人たちが話しているのをたまたま聞いたのだ。  そこは私も知っているお店だったから、すぐにすんなりと頭にインプットされた。 「どら焼きです。しかもの。なにか話のネタにでもなればといいんですが……」  仕事中にどら焼きの話なんて、あの専務が相手なのだから無理かもしれない。そう考えたら、私は浅はかなことを助言したと恥ずかしくなった。
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