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「夏野さん、そのお店ってここから近い?」
和久井さんは思いのほか、どら焼きの話に食いついてきた。
「はい。すぐそこです。歩いて五分くらいのところにあります。……ちょっと待ってください」
私はポケットからメモ帳を取り出し、ボールペンでお店の名前と簡単な地図を書いて見せる。
「ありがとう! 今から買ってくるよ。えっと……どら焼きのなんだっけ?」
「うぐいす餡です。それがそこの名物みたいで」
「わかった」
テーブルの上の書類をひとまとめに鞄に詰めて、和久井さんは私が渡したメモを持って駆け出していった。
そして十五分ほどして、息を切らしながら戻ってきた。
「あったあった! うぐいす餡!」
うれしそうに紙袋を私に見せる和久井さんを目にし、私も自然と満面の笑みになった。
「専務に最高の手土産ができたよ。前からいろいろ持ってきてはいたんだけど、どれも専務の好みから外れてたみたいで。ずっと考えあぐねてたんだ。ほんとにありがとう」
和久井さんは元気を取り戻し、先ほど座っていたついたてのスペースへと戻って行った。少しは和久井さんの役に立てたのだろうか。
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