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馬車よりも早い移動手段――それはきっと、彼が本来の姿で駆けてきたことを意味している。獣人の身体能力はとても高く、隣国までの道のりも、あっという間だ。
今回は訳あって、リーベスは彼の生まれ故郷である獣人の国へと旅立っていた。ひと月ほどかかるはずの全行程だが、とんぼ返りしてきたらしい。
「メーラ様。こちらへ」
ほのかに微笑むリーベスに微笑まれ、私は席を立って彼の元へと向かう。
リーベスのそばへと歩み寄ったところで、伸びて来た長い腕に掴まり、そのまま強く抱きしめられた。ぎゅうぎゅうと力を込めるものだから、背中が軋みそうだ。
「……メーラ様のにおいだ……落ち着く……」
「え、やだ、ちょっと、嗅ぐのはダメよ」
私の首元に顔を埋めるリーベスがそんなことを呟くものだから、恥ずかしくなってしまう。彼の前髪が首筋に触れて、くすぐったい。
「ようやく、触れられる。名実ともに、貴女を俺の番にできる」
「……うまくいったのね」
「ええ、アルデュイノさんとウーヴァさんと共に、これを」
少しだけ体を離したリーベスは、胸元から何やら書状を取り出した。
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