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その5 おかしい
「「え……?」」
突然の光景に、私を含め、この場にいた者たちは皆固まってしまった。
これまで彼女の口から謝罪めいた言葉を聞いたことがないというのも勿論だが、自ら地べたにひれ伏すなんてことが現実として受け止められないのだ。
ーーなんだろう、この体勢は。極限まで頭を下げているということ……なのかな。
これまで見た事のないポーズで、拝むように頭を下げるペスカを、私は不思議な気持ちで見下ろす。
「ペ、ペスカ! 何をしているの! 淑女がはしたないわ!」
唯一、早急に復旧したメローネ伯母様がペスカに駆け寄り、彼女を立ち上がらせようと手を引く。
私もリーベスや爺やの顔色を窺ったが、皆困惑の表情を浮かべている。
「……はしたないのは、お母さまとわたしです! 人の婚約者を奪るなんて……それに、記憶によれば、わたしたちはこれまでにもお義姉の優しさに甘えてやりたい放題だったではありませんか! ……朝起きた時は美少女転生に浮かれてたのに、思い出す事が嫌な感じばっかりで、こっちも正直引いてんですよ!」
「ペスカ……?」
メローネ伯母様を見据えたペスカは、語尾荒く言葉を紡いでいく。
『てんせい』や『ひいてる』とはどういう意味なのだろう。
完全にいつものペスカとは違う様子に驚いていると、彼女は床に座ったまま私を見上げた。
「お義姉さま。今更だとは思いますが、これまで奪っ……いただいた装飾品やドレスは全てお返しします。それに、ウーヴァ様の事だって……」
「あ、待って、ペスカ。ウーヴァの件は気にしないでいいわ」
言い募るペスカに、私は慌てて返事をする。
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