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その2 それにしても
(それにしても…….)
私の意識は、手にしている羽ペンに向いた。
この新しく作ったペンの書き心地は最高だ。滑らかでインクの出もいい。
特殊な素材を組み合わせて作ったインクは、水に濡れても滲まないようになっている。
紙自体がボロボロになってしまわなければ、きっと百年でももつだろう。
さらに見た目は細いこのペンには、ひと瓶分のインクを付与しているため、都度都度羽ペンをインク瓶に浸さなくてもいい優れもの。
(市販化出来たらいいなあ。今のコストだと難しいけれど、まだ改良の余地はある)
私が暮らすこの国では、強弱の差はあれど、貴族には魔力がある。かく言う私も貴族の一員ではあるので、幼い頃から魔法を使うことが出来た。
だけど、平民はほとんどが魔力がない。
そんな彼らでも便利に使える物を作るのが、私の目標なのだ。
「こっちにもいいか?」
「ええ。勿論よ」
ウーヴァに差し出されたもう1枚の紙は、新たな婚約の誓約書だった。
ウーヴァとペスカ、それにケルビーニ伯爵家の当主のサインが記入済みのそれにもさらさらとペンを走らせる。
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