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本当に書き心地が良くて、あと何枚でも書けそうだ。だけどもう書類は終わりらしい。残念。
「……じゃあ私はこれで失礼するわ。後のことは爺やと話をして頂戴。私、死ぬほど眠いの。ウーヴァ、ペスカ、お幸せに」
「メーラ……ありがとう!」
「……お姉さま」
古くからこの家に使えている家令の爺やに目配せをすると、彼は小さくため息をつきながらも頷いてくれた。
その事に安堵した私は、ふたりを残して部屋を後にする。
去り際に見えた妹のペスカは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
私が元婚約者に泣いて縋るとでも思ったのだろうか。
ーー残念ながら、私にとってウーヴァとの婚約なんて本当にどうでもいいのだ。というか、寧ろ……
「……やったわ、合法的に解決できた! これで私は自由!!」
部屋に戻った私は、そう言いながらベッドにダイブした。
いつもは面倒なペスカの我儘に、今回は感謝しかない。
きっと彼女の持病である『お姉さまの物が欲しい病』が発動したのだろうが、まあ相手のウーヴァも無事に陥落しているようだからいいだろう。
そろそろ結婚の準備を、と本格的に事が運ぼうとしていた矢先のこと。
今はお父さまから引き継いだ工房でものづくりをすることが楽しくて仕方がなくて、そんな事に時間を取られることがとても憂鬱だったのだ。
足をバタバタして喜んでいると、頭上から「お嬢さま」という低い声がする。
バタ足をやめて枕に埋めていた顔を上げると、端正な顔立ちの黒髪執事が、その顔を険しく歪めて私を見下ろしていた。
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